荒涼。

目の前が砂嵐になる体験をした。


本当は次の駅で降りるはずの電車を降りて、
ホームにうずくまって蹴られる分には一向にかまわない、
吐き気をこらえている意味がなくなるのが嫌だった。
なんとかコンコースまで階段を上りきって、トイレを探した。


最初に言ったけれど、砂嵐のようだから、
人の形があまり良く見えないんだ。
色はやたら黒っぽいし、視界も暗い。
人が避けてくれるのはとてもありがたかった。
足腰は、頭がぐらついてもゆらぐことはないらしい。


電車の中で、目の前が真っ暗になったとき、
とにかくここから出なきゃ、としか思えなかった。
乗車率100%の混雑、力が入らなくて、パソコンの入ったカバンを持つ手が震えた。
人が大勢降りる駅で、出口付近はごった返している。
人を押せるほど人が見えたわけではない。あれは突き飛ばされたようなものだった。


トイレを探し出して、個室にうずくまって、回復するのを待った。
待つ間も、砂はちらつく。この成り行きをもう一度見直すと、
あんなにいっぱいいっぱいだったくせ、冷静に対処していることに気づく。
今はもう、何か飲みたいな、なんて考えている。


…ここまでが朝の話で、早退して医者に行ったら、
「血管迷走神経反射」と診断された。
微熱はもしかしたら後遺症かもしれないけど、
大したことはないらしい。
副交感神経によるものだから、酷いなら正式な検査をしなければならない。


とにかく大丈夫らしい、とわかってよかったよ。
カラダを伴わない行為で、できることって少ない。
今は少なくとも必要としている、そう思うから。