Not Found?

意識してつけたものではないですが…クエスチョンマークをつけなければ、有名グループの歌のタイトルになりますね。
実はある日の日記のタイトルに、その曲の歌詞を引用しております。


深い意味は特にない文章ですが、ある意味恋愛モノです。苦手な方は避けてください。
一気に書いたので、品質に自信はないです。


製作期間:2010/03/09(Tue)~2010/03/10(Wed)
2378文字。読みにくかったらすみません。


なんとなく意識したのは、「ノンフィクションに基づく」フィクション、でした。
よろしかったら続きからどうぞ。


【Not Found?】


©Natsuki.H/crosshope/2010


どうしようもなくなったら色仕掛けでもなんでもすればいい。


しかして、そういった機会は今のところない。
幸いと言ってもいいかもしれない。本気出して命乞いする機会なんて無い方がいいに決まっている。
でもまあ、「そういうこと」でしか解決できないことがあるとすれば。


***


同性の…違うか。己を女性に見せようとする人に対しては(正確に言おうとするとどうしてこうも回りくどくなるんだ)、「これ、いいね」とか、「似合ってる」とか。そういう言葉を惜しまない。出し惜しみして悪いことは特にないと思うが。
だいたい心から思ったことを言う。心にもないことを言ってくだらないことに巻き込まれたくはないし。
髪を切ったわけでなくとも、雰囲気が変わったら「髪切った?」と訊く。
大事なのは髪を切ったかどうかではなく、「何がその人の印象を変えたのか」。
髪を切ったかどうか尋ねれば、その人自身の思い当たる節を聞き出せる。
化粧を変えたから。前髪を耳にかけただけよ。
この後は、もしかして恋人ができたの、とかなんとか言って、おだてればいい。気分良く、自分がおかしなことを尋ねた事実を忘れてもらう。


この人ひとりのことを把握したところでなんにもなりはしないが、なんにもならないことが大事なんだそうだ。
このやり方だと誰も損をしない。自分は自分の情報を開示しない。
これはすべて某友人の真似だ。
彼女と自分は同じ学校学年で3年間を過ごした。クラスは同じにならなかったが、後半は比較的一緒にいた。
後から知ったのだが、卒業直前まで、彼女の現在の家族構成を知る人間は担任を含め片手で足りる数しかいなかった。どこに住んでいるか、クラスメートは知らない。
言いたくないことに口をつぐもうとするとき、それを達成するにはどれだけ自分の情報を開示するかに左右されるのかしら。
言いたくないことを問われないように、会話のはじまりも終わりもすべて自分から。
徹底してみると案外おもしろかった。自分の口の軽さに気づいて反省させられる。
お互いを認識してから1年以上は顔見知り以上の関係でいて(他の女子と同じ扱い)、最後の半年くらいでまあ、こういう手口(なんと言っていいのかわからん。テクニックか?)を明かされ、卒業間際に黙っていたこと、を聞いた。
正直見事としか言いようがなかった。自分が騙されやすいのは仕様だから仕方ない。黙っていた事実も、蓋を開ければ納得できる。怒る気には一切ならない。
だからある意味好きだ。彼女の努力で、お互いが死ぬほど穏やかでいられる。
もし自分に恋人がいたとして、その人よりも尊敬する。ただその一点で。
自分の知る範囲で、彼女以外誰もできないことだから。


同性にしか応用の利かない事例を持ち出して言いたかったのはなんだろう。
…忘れた。結論を急ごう。回りくどく、でも伝わるように。


彼女は性別に関係なく浅い付き合いを徹底していた。
男性に女性扱いしてもらうために媚びることはなかった。相手がしてくることを、とがめはしなかっただろうけど(彼女は在学中よりも今の方がモテると思うのだ。外見も、性格も。これは自分が勝手に決めつけている)。


イニシアチブの話。
彼女はどんな恋人ができても結局彼女にそれがあった、らしい。
極論を言えば、命を左右することもその一種か。と。思ったのだ。
命乞いの…そもそも色仕掛けの話だったか。普遍に落とし込みたいなあ、と思って話しても、どうも飛躍してしまう。


色仕掛けしてまでどうにかしたいことはものすごく少ないし、そもそもその手管を教える人もあまりいない。まあ自分のまわりにはいないだろう。
どうすればそれが効果を発揮するんだ?
そもそもなにをすればいい?
相手が勘違いするように、うまく立ち回ればいいんだろう。だから、どうやって?


抱きしめた相手すら、本心は何を考えているかわからない。
同じように、自分の気持ちだって、相手には推し量ることしかできない。
…気持ちいいこと、うれしいことをすればいいかな。
髪を撫でる、手を繋ぐ、抱きしめる。キスする。
もうここで壁を感じる。これは序の口なんだろう。
そんなの誰だってできそうで。…その実、自分にはできないことがひとつだけ。


びっくりするかもしれないけれど。自分にはキスができない。
正確に言うと、「口には」キスができない。
手とか、頬に、まぶたに、ひたいに、首にはできた。
自分から口には触れられない。
軽いトラウマだろう。ふいうちのそれはされるのも…今もだめだ。誰からでも。
嫌がるか動けなくなるかのどちらか。
キスが嫌いなことに気づいてくれる人はいなかったと思う。


満遍なくキスすべてが気持ちいいことすてきなことだったらよかったのに。
そうは受け取れない自分はどうにもできなくて、手で触れる代わりにくちびるで触れてごまかした。でも口には触れない。
言葉で伝えたらどんな反応をするか怖かった。
改善しようと言われても、困るだけで。今度こそ暴れて怪我をさせるかも。


嫌いな人のそばにいようとは思わない。
嫌いな行為を進んで受けたいとは思わない。
イニシアチブを握って、キスは避けてきた、と言ったら笑うだろうか。


***


色仕掛けの手管を知らないから、どうしようもなくなったらさらにどうしようと悩むんだろう。
だから、色仕掛け以外の手段で事態の改善ができないなら、自分はきっとキスするだろう。
一番嫌いなことをして、その説明に言葉を尽くしてみる。
二番目に嫌いな、相手からのキスを受け入れる。
ひざまずいて、つま先に触れて懇願する。


それ以外に思いつかない。いったい他の人はどうするのだろう。
そもそも自分は、うまくことを運べるのだろうか?


だって効果も不明な色仕掛けなんかより、それを避けるための努力をするだろうから。


【End】